ミシガン大学MBA日本人ブログ

ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネス在校生、卒業生の日頃の生活や学習内容などを紹介していきたいと思います。

MAP ー ある自動車メーカーの話

Class of 2019のShinです。

4月でMAP(Multidisciplinary Action Projects)が終わり1年目のカリキュラムが終了しました。振り返ってみると9月に授業が始まってからあっという間でしたが、密度の濃い8ヶ月でした。今日は僕のMAPの経験について共有しようと思います。

 

僕がアサインされた企業は、アメリカの装甲車を製造しているメーカー。守秘義務があるので細かい背景は書けませんが、軍用ではなく商用のビジネスチャンスを探して提案する、というのがプロジェクトの課題でした。

 

チームは僕も含めて5人。

ミネソタ出身、前職ヘルスケアのコンサルでゴルフとホッケー好きのアンドリュー。

テネシーのナッシュビル出身で、元Army特殊部隊、カントリーミュージック好きのビル。

ブラジル出身、前職コンサル、サークルのバンドではベースを担当しているダニーロ。

ミシガン出身、フィアットで財務をしていてMAP完了後に男の子が産まれたジャレス。

4人ともナイスな、装甲車に似合うBig Guys。チームメンバーには恵まれたと思います。

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クライアントが製造する装甲車の見学ツアーで急傾斜を登り切った車両と。

 

MAPはLearning by Doingを掲げるRossの看板授業で、これまでコアのクラスで学んだことを生かして実際の経営課題に取り組む、というものですが、最初はどのチームもクラスルームとは全く違った、課題の現実さに戸惑ったようです。僕のチームも例に漏れず、オープンエンドで壮大な課題に面喰いました。このクライアントが参入すべき市場を見つけて提案する、という大きなテーマはあるけれども、それ以上の細かい部分は何も決まっていません。担当者と話をしても、「自動車の製造というビジネスから離れてもいいし、他社の買収を考えてもいい」と逆に可能性は広がるばかり。

 

チームはさぁ何をどう始めよう?という議論から始まります。魅力的な市場を探してクライアントが参入できるか探るのか、クライアントの強みから進出すべき市場を考えるのか。どういう市場の可能性があってその評価方法は?どういう基準で良し悪しを判断する?自動運転技術はどう影響する?考えなければならないことが沢山あり、最初の1,2週はプロジェクトのゲームプランの議論を重ねる日々でした。

結果、クライアントの強み=「オフロードの車体とその走行性能」からスタートして、数ある特殊車両カテゴリーの中からどのセグメントがベストか絞り込んでいくこと、判断基準はマーケットの魅力と既存のリソースが適用できるか、いうアプローチでチームの意見が一致し、そこからセグメントの選定と各々のセグメントのリサーチを始めました。

 

リサーチで最も悩ましかったのは、欲しい情報がなかなか見つからないことでした。消防車、キャンピングカー、現金輸送車といったようなニッチな業界を見ているので、その業界に関するレポートもなければプレイヤーはほとんどが非上場企業で財務情報も見つかりません。クライアントが利益率の指標としているEBITDAなんて全く出てきません。

そこで外部のデータベース(Rossでは膨大な数のデータベースにアクセスでき、Kresge LibraryのLibrarianがリサーチの手伝いをしてくれます。かなりお金かかってます)を活用したり、上流・下流に位置する業界の情報から推定したり、一部関連上場企業の有価証券報告書に書かれている市場の情報を利用したりと、手を尽くしてデータ収集しました。

 

 結果、チームはSWAT用車両、救急車、林野火災用消防車という3つのマーケットに絞り込みます。市場の魅力・既存の資産の活用可能性、という尺度で20のセグメントを評価したトップがこの3つでした。そこから、3セグメントそれぞれの推定市場規模や、既存のプレーヤー、リスクや差別化要因を特定して、プレゼン資料を作成します。プラスαとして提案した参入方法は、補完関係にある既存の企業の買収と、政府が補助金を出している使用済み装甲車の払い下げ&モデルチェンジのプログラムを活用するというもの。買収のターゲット先や、政府のモデルチェンジプログラムもリサーチの過程で発見して深堀した情報でした。

 最後はクライアントのCEOやその他の役員を前にプレゼンして、約40ページほどのレポートを学校に提出しました。プレゼンやその後のCEOとのディスカッションも非常に有意義な経験だったと感じています。

 

企業戦略をMBAのフォーカスにしている僕にとって最大の学びは、将来携わりたいと思っている新規事業の、計画段階のシミュレーションができたことだと思っています。今回と同じアプローチがそのまま当てはまるかはわかりませんが、市場の評価基準を考えたことや、欲しい情報を求めて細かいリサーチをしたことは業界が違えど応用できるはず。

もう一つ、MAP中に面白いと思ったのが企業戦略のストーリーについてです。クライアントの戦略部長と話す中で、「私たちは軍用の装甲車に特化するか、もしくは製品を多様化してXXX(競合先)のような企業を目指すか、という問いに答えようとしている」というコメントを聞いた際、MAPの取り組みがクライアントの企業戦略の大きなストーリーの一部としてぴったり収まったように感じました。この会社は大きな岐路に立っていて、右に進むか左に進むか、その判断を手伝うのがこのMAPでやっていることだったのか、と腹落ちしたのです。企業の方向性を決める大きな問いを設定して、それに答えるのが企業戦略家の仕事の一つなのだと感じた瞬間でした。