ミシガン大学MBA日本人ブログ

ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネス在校生、卒業生の日頃の生活や学習内容などを紹介していきたいと思います。

Rossの授業紹介!~必修科目編(AccountingとFinanceを除く)~

こんにちは。FTMBA 2年生のShokoです。2年目にしてようやくペンを取りました。

ビジネススクールって勉強する場所だよね?(基本的にはそのはずです笑)という正統派受験生に向けて、私が昨年受講したRossの必修科目について紹介したいと思います。ただ、筆者はAccountingバックグラウンドであり、Accountingは全科目Waive(過去の経験や学部時代の履修を理由に受講免除してもらうこと)したため、そこは記載していません。またFinance系科目については、私(を含め多くの日本人同級生)がFast Track in Financeというやや上級者向けのコースに進んだため、別の回にまとめて紹介したいと思います。

 

(1)Strategy 502 – Corporate Strategy(企業戦略)

毎回、ある企業の事例について書かれたケースをベースに、教授のリードの元でディスカッションしながら、戦略理論について体系的に学んでいくコースです。基礎科目であるこのコースでは、

・マイケル・ポーターのFive Forces分析

・戦略キャンバスを用いた自社と他社の強み・弱み分析

・顧客の支払意思額(Willingness to Pay)に着目したポジション設定

・コスト優位性を手に入れる戦略(Economies of Scale/Learningや先制展開、巨大化による購買力、垂直統合、効果的なR&D、企業文化など)

・産業のバリューチェーンとボトルネックの強み

・ネットワーク効果の活用

・事業領域の拡大とグローバル展開の方法

・インセンティブの効果

・意思決定プロセスとコミュニティの活用

といったテーマについて、多様な業界の企業の事例を通じて理解を深めることができました。また、80名強のクラスメートの中でほぼ毎回自ら挙手して議論に参加できたことは大きな自信につながりました。一方、チーム課題は少ないながらもヘビーで、5人チームで課題を分析して提案をプレゼンテーション(録音付き)に丸一日でまとめるといったものでした。ディスカッションについていくだけでも精いっぱいのNon-nativeな私としては一番苦しかったですが、チームの力で何とか形になりほっとしました。

 

(2)BE 502 – Applied Microeconomics(ミクロ経済学)

色々な企業の事例や戦略論と絡めながらミクロ経済理論の基礎を学ぶ科目です。主なテーマは、

・経済コスト(埋没コストと機会コスト他)

・コスト曲線とEconomies of Scale/Scope

・需要と消費者余剰、価格弾力性

・完全競争市場、供給曲線と生産者余剰

・競争市場における長期的市場均衡、貿易・外部性・税金・価格規制の影響

・リスク選好と保険、情報の非対称性と逆選抜、モラルハザード

・価格差別化と変動・固定料金制

・ゲーム理論

など。学部時代にも経済学に触れたことはあったものの、今回は理論中心ではなく実際の企業の意思決定として経済現象を捉えられたので、より楽しんで学べました。社会で起きている現象をモデル化することで客観的に分析する視点を身に着けられる授業でした。課題は頻度も多くハードでしたが、アメリカ人・ブラジル人と答えを持ち寄って毎回良い議論ができたのは感慨深いです。

 

(3)TO 502 – Business Statistics(統計学)

実際にExcelを用いて計算を行いながら、以下のような実務レベルでの統計学の基礎知識を習得するコースです。

・確率論の基礎、二項分布と標準分布

・サンプルの推定と仮説検定

・回帰分析を用いた統計モデルの構築

この科目も学部時代に学んだ範囲と一部被っていたものの、数学的な理論の裏付けよりも徹底して実際の計算ができるようになることに重きが置かれている点で、ある意味アメリカ流のアプローチに触れられたのが面白かったです。理論派には物足りないかもしれないですが、その分授業の進みは早く、Excelの活用方法も日に日に高度になっていくため、とても合理的だと感じました。ちなみに数学で統計の基礎的な考え方をしっかり習っている日本人にとっては、この科目はチームに貢献したり、良い成績を取る上で最も有利な科目の一つと言えるのではないでしょうか。とはいえ統計的な考えを英語で説明するのは一苦労なので、チーム課題は皆で集まる前に極力自分で計算し、数式と答えを皆に見せて納得してもらうのが得策だと思いました。

 

(4)MO 503 – Leading People & Organizations(組織運営)

リーダーシップと組織構造分析、組織運営手法について学ぶ授業です。実際の企業の事例に基づいて書かれたケースや映画、専用のプログラムを用いたシミュレーションとその結果、クラスメートの実際の経験等をベースに、教授の質問に対してディスカッションしながら学びました。このコースでは、

・リーダーシップ調和モデルを用いた組織構造分析

・経営における意思決定のポイントと注意すべき偏見

・Expectancy Theory of Motivationを用いた人・組織のモチベーション向上手法の分析

・影響力の行使と説得の技術

・社会資本の重要性(人的ネットワークの種類と拡大戦略)

・チームマネジメント理論

・交渉術

といった比較的抽象的なテーマについて、実際に頭と手を動かしながら体系的に理解することができたと思います。このコースは毎回教授から名指しで発言を求められる機会が多いため、クラスには常に緊張感があり相当な集中力が求められますが、スピーディな議論の中でタイミングを見つけて自ら挙手・発言していったことで各回のテーマを自分のものにしていけたように思います。また、この科目はチームでのシミュレーションの機会が数多く用意されているのも特徴です。

例えば、カーレースベンチャーの経営者になりきり社運をかけてレースに出るか否かを議論したり(蓋を開けてみるとこのストーリーは米国の歴史に残る某重大事件のオマージュと分かり納得するのですが・・・Applicantの方にネタバレしないようここでは伏せておきますね)、チームを二手に分けて、お互いに手の内の見えない中で価格交渉を妥結させられるかをシミュレートしたり、チームで(ソフトウェア上で)エベレストに登る経験をする中でメンバーの体調不良と天候を懸念しながら多々決断を迫られたり、コンサルタントとして大企業の変革を任せられる中で誰にどのような順番でどのように話を持っていくかをシミュレートしたり(チームによってはクライアントの信頼を失いマイナス得点がついたりするので結構シビア)…と、とにかくほぼ毎回冒険が待っているので緊張しつつもワクワクできる内容でした。Financeなどのハードスキルと違って人によっては軽視されがちなソフトスキル系の科目ですが、ふわっとしている科目だからこそ、それをある程度体系化し、多様なチームで互いに議論しながら学ばせようとしている点に米国で学ぶ価値があると思いました。

 

(5)MKT 503 – Marketing Management(マーケティング)

こちらはマーケティングの基礎理論を、様々な実際のビジネスケースや広告等に触れながらフレームワークに沿って学ぶコースです。マーケティングにおいては定番の内容ですが、以下の理論が含まれます。

・マーケティングの基礎

・3C(Customer, Company, Competition)による市場分析、顧客価値

・STPフレームワークを用いた戦略的市場選択

  − Segmentation、TargetingとCLV(Customer Lifetime Value)の計算、PositioningとBranding戦略

・4Pフレームワーク(Product・Place・Pricing・Promotion)をベースとした市場参入

時にはゲストスピーカーとしてアマゾンやP&Gのマーケティング担当者が招かれ、実際の企業でどのようなマーケティング戦略がとられているかを伺うことができたのは貴重な機会でした。3つのチーム課題では、それぞれ20ページ以上あるケースとデータを配布され、それらを元に授業で学んだフレームワークを活用して分析を行いました。課題を通して、理論を理解する以上に、膨大な情報から重要な内容を引き出し、目に見える形に整理して分析するという過程が一番大変だと学びました。この授業はFall Bという秋学期の後半(10月末〜12月中旬)に開講され、この頃になると1年生は徐々に就活やクラブ等のプロジェクトなどが本格化し忙しくなる時期なのですが、それでもこうした課題に何とか貢献しようとするチームメイトの姿がRossらしくて印象的でした。

 

(6)TO 552 – Operations Management(オペレーション)

オペレーション、言い換えると生産や営業活動の効率性について理論的に解き明かしていく分野の基礎科目です。主に以下のテーマを扱いました。

・オペレーションの意義

・プロセス分析:在庫積み上げダイアグラムを用いた在庫増減の見える化、Little’s Law(在庫と投入量、処理時間の関係を示した理論)

・待機時間管理:ポワソン分布、VUTモデル(投入間隔・処理間隔から稼働率を求め、それと投入・処理間隔のばらつき、処理時間の情報から理論上の待機時間を算出する手法)

・在庫管理:購買のパターン別に、統計的に最適なオーダー量や適正在庫、オーダーのタイミングを計算する方法

・リーン生産方式(=TPS:トヨタ生産システム)等:事例を用いた工程・品質管理の手法

・プロジェクトマネジメント:複数回路からなる工程の所要時間計算と短縮化の順序決定 

この講義を受けるまで、「オペレーション」はMBAの定番基礎科目の中で最もイメージの沸かない科目でしたが、実際に基礎の講義を受講し、なぜ一つの科目として成立するのかがよくわかりました。例えば、定期的に顧客が訪れる店よりも、ある一定時間に顧客が集中する店の方がトータルの待機時間が長くなるなど、感覚的には違和感がないものの、その程度を直感的に答えるのは難しいようなことに対して、理論的な答えを導くための数式が確立していることに感動しました。結構複雑なため日常的に使いこなすのは難しいと思いますが、一方で、企業はそれを活用することで理論上最適なオペレーションを実現でき、実際にAmazonなどは恐らくこうした理論を活かして成功しているのだなという感覚を得られた点で学び甲斐がありました。

また、日本の自動車メーカーが米国で高いシェアを獲得したことについて米国内ではやや苦々しく語られる文脈もある中で、トヨタ生産方式が「敵は(FordでもGMでもなく)”Muda”だ」という理念と共に、今も尊敬を持って米国のビジネススクールで教えられているという点はなかなか感慨深く、日本人ビジネスパーソンとしてもっと良く知っておくべきだなと感じました。

 

(7)Strategy 503 – Competing in the Global Business Environment

グローバルにビジネスを展開するに当たって考えるべき戦略のポイントを学ぶ授業です。内容は国際マクロ経済学に近いと感じました。終盤では5つのケースを事前に読んだ上でディスカッションベースでの授業が展開されました。扱ったキーワードは以下の通りです。

・通貨(為替、通貨危機)、物価(インフレ率)、利子率、財政赤字、金融収支と経常収支、成長率、外貨保有高、貿易(比較優位、通商政策、貿易協定)、対外直接投資 等

実際の大企業のケースを用いてその成功点・課題点を議論できたのは面白かったです。理論を理論で終わらせず、学んだ知識を適用して、次に企業がどのような海外戦略を取るべきか、客観的に考える視点を今後も養っていきたいと思いました。

 

以上が私の受講した必修科目です。

次回は冒頭で紹介したFast Track in Financeというプログラムを含め、私の受講したFinance科目について紹介したいと思います!

 

Go Blue!